技術コラム

航空機の部品製造とは?求められる3つの要素と材質について

 この記事では、航空機の部品製造において求められる技術や材質について、当社の加工事例をもとにご紹介します。

 

航空機の部品製造(製作)とは

 まずはじめに、航空機と一言に言っても、推進力を何によって得て、どんな環境を時速何キロで飛行するかによって部品に求められる要素は異なります。

 例えば、数人乗りのプロペラ飛行機であれば、飛行速度が時速220kmほどであるため、飛行中の荷重条件が厳しくありません。そのため、機械加工部品と比べ、比較的強度が低い板金加工部品が構成部品の多くを占めます。しかし多くの顧客を運ぶジェット機は、時速800~900kmという速度で飛行し、高度も8000~10000m、氷点下30℃という過酷な環境で安全に飛行しなければなりません。その為、特に耐荷重の観点から、高強度の機械加工部品が多く使用されます。

 

 航空機の構成は大きく「機体」 「エンジン」 「装備品」の3つに分けられます。

それぞれの用途によって使われる材質や精度は異なりますが、ただ言える事は、どの部品においても人命重視の観点から高い品質管理が求められます。

 

各部位で主に機械加工部品の素材について概略ながら説明したいと思います。

 

機体

 「機体」は航空機の胴体や翼などの部位で飛行機の構造体の多くを占めます。軽さと強度が求められ、高強度アルミや炭素繊維、チタンなどの材質が使用されています。その中でも多くの割合を占めるのが高強度アルミで、耐腐食性、耐疲労性などに優れた超々ジュラルミンと呼ばれる「A7075」などのアルミ合金が使用されます。現在の主流の加工方法はブロック素材からの機械加工での削り出す方法です。

 最近では大型の5軸マシニングセンタなどで、20,000回転/分を超える高速回転の主軸をつかい、従来よりも短時間で複雑な形状の機体構造部品を削り出していきます。

 

エンジン

 「エンジン」はケロシンなどの燃料を、圧縮した空気と混ぜて燃焼させる事で生じる大量の噴流を推進力のエネルギーに利用するガスタービン構造の動力機関です。ジェットエンジンは航続距離の延伸とカーボンニュートラルの観点からも高い燃焼効率の要求が高まっています。

 大気を吸い込み、空気を圧縮する吸気側では炭素繊維やチタン合金などの素材が、燃焼室は最も燃焼温度が高くなる場所で、使用素材や冷却構造などブラックボックス化されており、あまり情報がありません。推進エネルギーを排出する排気側では、インコネルなどのニッケル合金が主流ですが、耐熱性が高く軽量なチタンアルミ合金、CMC(セラミックス複合材)など新素材も使用や研究がされています。

 燃費向上と航続距離の延伸に繋げる為、燃焼効率を高める技術志向から、エンジン内部での燃焼温度がどんどんと高くなる傾向にあります。金属の切削加工の鉄則として、削る素材と切削工具の間では、切削工具の方が硬くなければなりません。

 切削加工時に発生する高い摩擦熱のもとでも、その関係は必須条件ですが、燃焼部で使用される耐熱素材は高温環境下でも強度が保持されているため、切削工具も高温で軟化してしまい、削る素材との硬度差が小さくなり消耗が進みやすくなります。これが耐熱合金の切削加工の難しい点と言えます。そのためジェットエンジンに使用される耐熱合金は難切削の材質が多く、特にタービンブレードなどの高速で回転する構造部品は難加工素材な上に、極めて高い精度が求められます。

 

装備品

 「装備品」は機体構造体やエンジンを除いた総称で、全体価格の4割を占めると言われています。油圧システム、与圧・空調システム、アビオニクス、内装、降着装置などさまざまです。エルロン、フラップなどの飛行制御に使用される油圧機器にはエンジンに利用される素材とは異なる耐食性と強度を兼ね備えた「15-5PH」などの析出硬化系のステンレスなどが使用されています。また降着装置には着陸の衝撃に耐えるため「300M」などの超高張力鋼が使用されており、これも難切削加工材質です。

 

 つまりひとえに航空機部品製作と言っても部位において素材も加工の難しさも、大きく異なります。ただどの部品においても言えることは、前述の通り人命重視の観点から高い品質管理能力が求められるということです。

 

 

航空機の部品製造で求められること。

航空機の部品製造に求められるものは下記の3つの要素です。

・素材特性を理解した加工技術

・安定した製造を続けるための工程設計

・品質保証体制

 

素材特性を理解した加工技術

 航空機に使用される素材は特に耐腐食性、耐疲労性に優れた素材が使用されており、引張り応力を抑制するため、熱処理などに調質処理よって金属組織を一定の状態に保っています。

 航空機素材はAMS規格(AeroSpace Material Specification)の素材で厳格に定められており、例えば機体の素材に使用される「AMS-QQ-A250/12 7075-T7351」。これはアルミの7075材にT7351という調質処理が施されています。この素材はアルミ合金の中でも最高クラスの強度がありますが、加工方法によっては「歪み」が生じてしまいます。一般的な用途であればアニール処理などの熱処理を加え、歪みを取る事ができますが、航空機で使用される素材は、勝手に熱処理を加えてしまうと、本来の強度が無くなり、耐疲労性が確保できず、事故に繋がる危険性があります。その為、素材の特性を理解しながら歪みを抑えた加工方法を選択する必要があり、ここが加工のノウハウとなる訳です。チタン合金やインコネルなども、加工方法によっては歪み、溶着、むしれ、加工硬化などが生じ、品質、コスト、生産性のバランスを取るためには素材を理解した加工技術が必要となります。

 >>精密金属加工とは、定義や特徴について

 

安定した製造をつづけるための工程設計

 先に述べた素材の特性を理解しながら、安定した品質で航空機の部品製造を行う事が極めて重要になります。そこで必要な事が適切な工程設計です。

 工程設計とは素材から加工終了までの、いわば加工順序や品質管理にかかわるマニュアルとも言えます。各工程の加工図、ツーリングリスト、治工具、使用する加工プログラム、測定に関わる情報などを盛り込んだもので、長期にわたり製造を行う航空機部品だからこそ、作業者が代わっても同じ品質で製造しつづけるために、工程設計の能力が重要になります。

 これは各社の蓄積したノウハウによって差が生まれるところで、加工の「固有技術」や「管理技術」がブラックボックス化されており、その会社の生産技術力とも言えます。

 

品質保証体制

 航空機部品の品質保証には「ゆりかごから墓場まで」という言葉があります。

 その部品の生い立ちを記録し、品質保証する必要があります。グローバルな品質規格であるISO 9001に、航空宇宙産業特有の要求事項と解釈を追加した品質マネジメントシステムがJIS Q 9100であり、この規格要求事項に沿った品質保証体制を構築し、加工から品質保証まで定められたルールで記録を残していきます。

 航空機の部品故障は人命に直結する危険性があるため、この記録を遡り部品単位まで真因を探り、速やかに対策を取れる仕組みが必要です。

 

 

航空機の部品製造に使用される素材

航空機の部品製造に主に使用される素材として、

・チタン合金

・インコネル

・15-5PH

以上の3つが挙げられます

これらの特性について説明します。

 

チタン合金

 チタン合金は、比重が鉄の6割程度で、重さあたりの強度である比強度ではアルミの約3倍、鉄の約2倍の強さを持ち、耐食性にも優れています。これらの特徴から航空機・宇宙・原子力などの分野で多く利用されてきました。また生体親和性の高さからインプラントなどの医療分野でも利用が進んでいます。

 このように優れた特徴のチタン合金ですが、一方で切削加工を行なう点では熱伝導率が低く化学的活性が高いという特徴から、加工熱が逃げにくく切削工具が高温になるため、工具が消耗し易くなります。加えて加工点が高温になるほど科学的な活性が高くなるので溶着が起きやすく、これも工具を損傷させる原因となる事から難削材とされています。

 チタン合金を加工する際のポイントとしては、切削温度のコントロールが重要であり、工具のすくい角を大きくしたり、工具のコーティングや切削油材の選定が重要となります。

 またヤング率が小さい事から薄肉の加工物になると歪みやすく、航空機の部品でも薄肉になるほど加工精度を出しづらく、難加工材質と言えます。

 >>チタン合金について

 

インコネル

 インコネルは、ニッケルが主成分の耐熱合金です。高温強度が高く、耐食性に優れ、長時間の圧力をかけても歪みが生じにくい耐クリープ性に優れており、その性質から火力発電設備や航空機エンジンやロケットエンジンなどの過酷な環境で使用されています。しかし高温強度の高さは切削加工においては大変な難点で、高い加工熱に工具が負けてしまいます。

 また、親和性の高さも持ち合わせているため工具への溶着が起きやすく、更に寿命を超えた工具などで加工しつづけると著しい加工硬化で加工できなくなってしまう事もあり、これらの性質から超難削材の一つとされています。

 インコネルを加工する際のポイントとしては高温における化学反応を防ぐための回転速度の抑制、工具寿命の管理などが挙げられます。耐熱温度の高いセラミックス工具での高速切削加工で加工能率を上げる方法も近年実用化されています。

 

15-5PH

 15-5PHは航空機以外ではあまりなじみのない素材ですが、航空機では一般的な強度部材として使用される析出硬化系ステンレスです。熱処理前は切削での加工性がよく、通常のステンレス加工の条件で加工できます。出来る限り粗加工は熱処理前に行った方が良いでしょう。熱処理後は強度が上がるため加工時に切削熱が高くなり、工具を消耗しやすいという難点があります。

 

 

 これらを始めとする様々な素材が航空機の部品製造に用いられます。しかし、航空機の部品に用いられる素材は、難削材であるものが多いため、部品製造を行う際は精密金属加工技術のみならず、難削材の加工ノウハウも必要となります。

 

 

加工事例

当社の航空機部品の加工事例の一部をご紹介します。

インコネル625 ジェットエンジン部品

飛行機 インコネル625 ジェットエンジン部品

こちらは小型ジェットエンジン部品のタービンブレードです。インコネルを使用し、5軸機で削り出し加工を行いました。本製品は一体型の部品となっており…

>>詳しくはこちら

 

 

 

 

 

 

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 精密金属加工VA/VE技術ナビを運営する佐渡精密株式会社は、航空宇宙産業における品質マネジメントシステムのJIS規格であるJIS Q 9100を取得しております。加えて、ISO9001、エコアクション21などの規格を認証取得しております。

 当社は1970年の創業以来、切削加工を中心に、表面処理、熱処理・研削・組立などを加えた精密金属加工のプロフェッショナルとして、様々な精密金属加工を行ってきました。そのお取引先は、医療機器、半導体製造装置、航空機などの、高度な技術レベルを求められる業界のお客様が多く、皆様には大変、ご満足いただいたとの声をいただいております。

 

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