
技術コラム
【表あり】ニッケル基合金とは?用途や切削加工のポイントについて解説!

発行日:2025年5月23日
近年、航空宇宙・エネルギー・化学・医療といった先端産業において、材料に対する「高温環境下での強度」や「過酷な腐食環境への耐性」が一層求められるようになっています。
このような要求に応える素材として、ニッケル基合金が再び注目されています。
たとえば、航空機エンジンの内部部品や原子力発電所の構造材、さらには高機能な医療機器部品に至るまで、極めて苛酷な条件下での使用を前提としたニッケル基合金の採用事例が増加しています。
ニッケル基合金の加工方法には主に、プレス・板金、切削加工、鋳造加工などが用いられますが、今回は切削加工でのポイントについてもご紹介いたします。
ニッケルとは?
ニッケル(Ni)は、鉄や銅と並んで古くから知られる金属元素のひとつです。銀白色で耐食性や耐熱性に優れているため、多くの合金材料の基礎となっています。
ニッケルの特徴としては以下が挙げられます。
耐食性
ニッケルは酸やアルカリなどの腐食環境に強く、錆びにくい性質があります。そのため、化学装置や海洋構造物など、過酷な腐食環境下での利用に適しています。
耐熱性
高温に耐える性質があり、熱による変形や劣化が少ないことから、エンジン部品や発電設備などの高温環境に使われます。
加工性
金属としての延性や展性があり、加工しやすい一方で、加工時に加工硬化が起こりやすいという特徴があります。特にニッケル基合金ではその影響が顕著です。
磁性
ニッケルは磁性を持つ数少ない金属のひとつであり、電気機器や磁気記録媒体にも利用されています。
これらの特性を活かし、ニッケルは単独でも利用されますが、合金として他の金属と組み合わせることで、さらに優れた耐熱性や耐食性を発揮します。特に「ニッケル基合金」は、ニッケルを主成分として設計された高機能合金であり、極限環境での使用に耐える材料として重要視されています。
ニッケル基合金とは?
ニッケル基合金とは、主成分にニッケルを用いた耐熱・耐食性合金のことを指します。
中でも「ニッケル基合金」と「ニッケル合金」という似た用語が使われますが、両者には明確な違いがあります。
・ニッケル合金:ニッケルを含む合金全般(ニッケルの含有量は高くない場合もある)
・ニッケル基合金:ニッケルを主成分とし、特に耐熱・耐食性に優れた特殊合金
つまり、ニッケル基合金は、耐熱・耐食性を目的として設計された「高性能なニッケル合金」と言えます。
主なニッケル基合金の種類と特徴
これらの合金は、使用温度、腐食環境、機械的負荷などによって選定されます。インコネルやハステロイなどはそれぞれ商標名であり、メーカーや規格団体により化学成分や特性が若干異なる場合があります。
ニッケル基合金の切削加工時の注意点
加工硬化が起こりやすい
切削によって材料表面が急激に硬化し、工具の負荷が増加。再切削で工具摩耗が進む。
熱伝導率が低い
切削熱が工具に集中しやすく、焼き付きや寸法精度の低下を招く。
工具摩耗が激しい
高温・高硬度のため、一般的な工具では早期摩耗・欠損が発生しやすい。
切りくず処理が困難
切りくずが長く、絡みつく傾向があり、工具破損や加工トラブルの原因になる。
加工音・振動が出やすい
工具負荷が大きく、加工中に異常振動や騒音が発生することがある。
ニッケル基合金の被削性指数とは?
被削性指数とは、材料の切削加工のしやすさを数値化した指標であり、工具の寿命、切削速度、切削力、切りくずの形状などを総合的に評価します。ニッケル基合金は一般的に被削性指数が低く、加工が非常に難しい材料の一つです。
加工硬化が顕著であること
切削面が硬化し、工具に大きな負荷がかかるため、工具寿命が短くなる。
熱伝導率が低い
加工熱が工具に伝わりにくく、工具の摩耗や焼き付きが促進される。
切りくずの処理が困難
長く絡まりやすい切りくずが工具破損や加工トラブルを引き起こす。
これらの特性により、ニッケル基合金の被削性指数はステンレス鋼や炭素鋼に比べてかなり低くなります。たとえば、快削鋼の被削性指数を100とした場合、ニッケル基合金は10~30程度とされることが多いです。ただし、評価基準の違いによって数値にはバラつきがあります。
被削性を改善するためのポイント
ニッケル基合金の加工においては、被削性指数の低さを理解した上で、以下のような対策を講じることが重要です。
工具材質・コーティングの工夫
高硬度で耐熱性のある超硬合金やセラミック工具の使用、TiAlNやAlCrNコーティングによる工具寿命の延長。
切削条件の最適化
低速・高送りを基本に切削速度や切り込み深さを調整し、過剰な熱発生を抑える。
油剤の選定
加工点に冷却液を直接供給し、切削熱と切りくずの除去を効率化。選定工具に合わせて、使用可否や種類の検討が必要。
加工工程の分割
粗加工・中仕上げ・仕上げの段階的加工により工具の負担を分散。
ニッケル基合金の切削加工時の対策
刃先材質の選定
超硬合金、セラミックなど、高耐摩耗工具を使用。
切削条件の最適化
低速・高送りを基本に切込み量や回転数を調整し、過剰な加工熱を防ぐように設定。
油剤の使用
加工点へ十分に冷却液を供給し、熱のこもりや焼き付き、切りくず排出不良を防止。
工具形状・コーティング
耐熱性・耐酸化性を持つTiAlN、AlCrNなどのコーティング付き工具を選ぶと効果的。
工具交換のタイミング管理
摩耗した工具を使い続けると急激な破損につながるため、定期的な交換が重要。
加工工程の分割
一度に仕上げず、粗加工→中仕上げ→仕上げの多段階加工を行うことで工具負担を分散。
まとめ
ニッケル基合金は、過酷な環境での信頼性が求められる用途において欠かせない材料です。
しかしながら、種類によって物性が大きく異なるため、用途に応じた合金の選定と、加工技術の適切な適用が重要です。