技術コラム

ワイヤー放電加工とは?特徴や用途について解説!

ワイヤー放電加工とは

 ワイヤー放電加工(ワイヤーカット)は、金属加工における精密加工技術の一つで、導電性のある材料を非常に高精度で切断・加工するための方法です。切削加工では困難な加工形状にも対応でき、複雑な形状や微細な加工が必要な場合に多く利用されます。

 

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ワイヤー放電加工の特徴

・硬い材料の加工が可能

 切削加工が困難な超硬合金や焼入れ鋼など、硬度の高い金属材料も容易に加工できます。

 

・複雑な形状の加工が可能

 CADデータを元に、曲線や複雑な形状の切断が容易に行えます。極細のスリット、小さい穴など、細かい形状の切り抜きが可能です。

 

・極小Rの角の加工

 切削加工では工具の刃先の直径によってRが発生しますが、ワイヤー放電加工は非常に細いワイヤー(例えばφ0.1mm)を使用できるため、極小Rのコーナーを作ることができます。

 

・内側からの加工が可能

 スロッター加工やスプライン加工でもキー溝など内径部の加工はできますが、ワイヤー放電加工では、専用工具を用意しなくとも加工が可能です。

 

・積層加工が可能

 ワイヤー放電加工では薄い板材を重ねて一度に加工することができるため、同じ形状を大量に高精度で加工することができます。これは切削加工では難しい技術です。

 

・バリの発生がない

 切削加工ではバリが発生しやすく、仕上げ処理が必要になる場合がありますが、ワイヤー放電加工ではバリがほとんど発生しません。

 

・応力が少なく、変形しにくい

 切削加工では工具の圧力が加わり、薄物や微細部品が変形する可能性がありますが、ワイヤー放電加工は非接触の加工方法のため、応力による変形が少ないです。

 

・熱影響が少ない

 非接触の加工方法のため、加工面の熱影響層が薄くなり、寸法変化や歪みが少ないです。

 

 

ワイヤー放電加工の仕組み

 ワイヤー放電加工は、材料と電極(ワイヤー)の間に電流を流し、放電によって発生する高温の熱エネルギーを利用して材料を除去する加工方法です。

 

加工の原理:細い導電性のワイヤー(一般的には真鍮やモリブデン製)と加工する金属の間に電圧をかけ、放電によって発生する熱で金属を溶融・蒸発させて材料を除去します。

非接触加工:ワイヤーと材料が直接接触しないため、機械的な力による加工痕や変形がありません。

冷却液(絶縁液):加工時に使用される液体(通常は純水または専用の絶縁液)は、加工熱を冷却し、加工面の品質を保ちます。

 

 

以下に詳しい仕組みを説明します。

1.放電の発生

 ワイヤー(電極)と加工対象の金属(被加工材)の間に高周波の直流電圧が印加*されます。この電圧により、ワイヤーと被加工材の間に絶縁されたギャップが保持されます。ギャップ内で電圧がしきい値を超えると、放電(スパーク)が発生します。

 

*印加(いんか):電気回路に電源や別の回路から電圧や信号を与えること。

 

2.熱による材料除去

 放電によるエネルギーで局所的に高温(~7,000℃)が発生します。この熱で金属が溶融し、一部が蒸発します(溶融・蒸発現象)。溶融部分は、加工液(絶縁液)に冷却されて微小な粒子(デブリ)として洗い流されます。

 

3.加工液の役割

 絶縁液(通常はイオン化を抑えた水や専用のオイル)が使用され、以下の役割を果たします。

・放電を制御し、適切なギャップを維持。

・放電時に発生する溶融金属や蒸気を冷却。

・加工デブリを洗い流して加工面を清浄化。

 

4.ワイヤーの動き

 ワイヤー電極は、加工中に絶えず新しい部分が供給されるように連続的に送り出されます。ワイヤーが被加工材を通過しながら放電を繰り返し、材料を削り取ります。この動きにより、精密な形状を作り上げます。

 

5.数値制御(NC加工)

 ワイヤーの動きは数値制御(NC制御)によってプログラム化されます。CADデータから作られた加工経路に沿ってワイヤーが動くことで、複雑な形状を高精度に再現します。

 

 

この仕組みは非接触加工であるため、硬度が高い金属や複雑な形状の加工に非常に適しています。一方で、加工速度が比較的遅いため、生産性を考慮する必要があります。

 

 

ワイヤー放電加工の用途

金型製作:プレス金型や射出成形金型の製作に利用されます。

電子部品:微細な形状が必要なコネクタやセンサー部品の加工に適しています。

航空宇宙・医療機器:高精度が求められる分野での特殊材料加工に使用されます。

 

 

まとめ

メリット

・高精度な加工が可能

・複雑な形状やでも対応可能

・薄い板材の加工や積層加工にも対応可能

・極小Rの角加工が可能

・下穴を開けることで、内側からの加工が可能

・バリの発生がない

・機械的な応力がかからない

・材料歩留まりがよい(切削の場合の切粉に相当する排除量が少ないため)

 

デメリット

・加工速度が遅い

  →夜間運転などでカバーしやすい(自動運転時の人の管理が不要なため)

・導電性のある材料に限定される

 

 

 

 

 

 

 

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