技術コラム
【図表で解説】幾何公差の必要性について
幾何公差とは
従来、図面を描く際はサイズ公差が用いられてきました。サイズ公差とは図面が指示する部品や製品の長さや幅、直径等の大きさに対し、許容される誤差を意味します。言い換えれば、あるべき2点間の距離のバラつきです。しかし、部品の形体を表す特性は大きさ(サイズ)だけではありません。形状・姿勢・位置も形体を表す特性です。これは大きさとは別に分類され、幾何特性と呼ばれます。
幾何公差とは設計意図を正しく伝えるために、図面に記載する形状・姿勢・位置などの幾何特性を規制する公差になります。
図1.形体を表す特性と幾何公差
例えば円の直径はノギスやマイクロメータで2点間測定する寸法(サイズ)になりますが、円の歪みは真円からどれだけずれているのかで評価する幾何特性になります。
図2.直径と円の歪み
独立の原則と包絡の条件
JISでは、サイズと幾何特性の関係において、独立の原則を採用しています。
「独立の原則」とは、大まかにいうと“サイズ公差と幾何公差は特別な指示が無い限り、それぞれ別に指示する”という考え方です。詳しくはJIS B 0024に記載されています。
幾何特性とは反り、傾き、平行、位置ずれ、円の歪みなどを指し、幾何公差は理想的な形状からの変化の度合いを規制しています。
幾何公差は公差の種類として4種類(「形状公差」「姿勢公差」「位置公差」「振れ公差」)に分けられ、その中で細分化され真円度や平行度など15の特性に分類されます。
(URL引用元:株式会社キーエンス,「ゼロからわかる幾何公差」)
この考え方で幾何公差を指示しない場合、サイズ公差を満たしていても、形状のバラつきによって、部品同士がはめ合えない等の原因になります。(実効領域が大きくなるため)
例えば、シャフトの直径は寸法通りなのに曲がっているせいでリングゲージが通らない、のようなイメージです。
つまりサイズ公差の管理のみでは軸・穴の位置決め部品やはめ合わせの部品の場合、組み立てができないなどの不具合が出る場合があるので、幾何公差を使って形状のあいまいさを明確にする必要性が出てくるという事です。
図3.独立の原則の図面支持と実物のバラつき
一方で「包絡の条件」という考え方では、サイズと幾何特性に相関関係を持たせています。ASME(アメリカ機械学会)が標準として適用している考え方です。
この考え方を簡単に言うと、”サイズが最大の時の理想形状内に実体が収まっていればよい”という考え方です。
JISに準拠する図面で適用する場合はサイズ公差の後に丸で囲んだEを付けます。このEはEnvelope(=封筒)の頭文字で、形体の最大実体の封筒(入れ物)に収まるような実体にするというイメージです。
図4.包絡の条件の指示
上記の図の時、サイズがΦ20mmの場合、歪みがあるとΦ20mmの入れ物に入らなくなるので、幾何特性のバラつき(変形)は許されません。
Φ19.9mmの場合は0.1mm隙間がある状態になるので、幾何特性のバラつきは0.1mmまで変形が許されるとこととなります。
同じように考えるとΦ19.95mmの場合は0.05mmまで許される、というようにサイズと幾何特性が関連して許容差が変わります。
この考え方の場合、実物によって幾何特性のバラつきが変わり、サイズ公差の下(最小)の許容差に近づくほど大きな円の歪みや曲がり、反りが許容されてしまいます。摺動面や密閉性が必要とされる面などには幾何公差を用いて幾何特性のバラつきを規制する必要が出てきます。
図5.包絡の条件における実物のバラつき
日本では主に独立の原則、アメリカでは包絡の条件のように国や地域で図面寸法の捉え方、考え方に違いがあります。また、いずれの考え方でもサイズ公差だけでは幾何特性の規制ができず幾何特性のバラつきにあいまいさが残ってしまい、用途によっては機能の損なった部品が生産されてしまいます。
幾何公差はこのあいまいさを明確にするために必要な公差となります。
幾何公差の一般公差
切削加工のような除去加工においては指示の無い公差(一般公差)にJIS B 0405の一般公差を適用する場合は多々あり、図面の表題欄の所にサイズ公差を指示している図面が多く見受けられます。
上記のようにJISでは独立の原則を基本的に採用しているので幾何公差はどうなのか?という疑問を持つ方もいるかもしれません。
JISの場合は”JIS B 0405”が「個々に公差の指示がない長さ寸法及び角度寸法に対する公差」というタイトルで、サイズ公差を粗級(c)、中級(m)、精級(f)といった等級で区分けし、まとめられています。
同じように幾何公差についても”JIS B 0419”に「個々に公差の指示がない形体に対する幾何公差」というタイトルで、粗級(H)、中級(K)、精級(L)といった等級でまとめられています。
また、この両方の規格を図面指示する場合は”JIS B 0419”とその等級、”JIS B 0405”の等級で指示する事ができる、となっています。
例として、”JIS B 0419-mK”とは、サイズ公差は”JIS B 0405”の中級(m)を適用、幾何公差は”JIS B 0419”の中級(K)を適用という意味になります。
JISの一般公差を用いていても、図面によって、サイズ公差は中級(m)で幾何公差は精級(L)のような場合もあるので、気をつける必要があります。
まとめ
・サイズはサイズ公差、幾何特性は幾何公差で別々に規制されます。
・JISでは独立の原則が基本的な考え方であり、サイズ公差と幾何公差は別で捉えるため、用途に応じた公差を付ける必要があります。
・JISの指示の無い幾何公差は”JIS B 0419”にまとめられています。