技術コラム

インバーとその関連合金について

インバーとは

 インバー(Invar)は、鉄(Fe)とニッケル(Ni)を主成分とする特殊合金で、低熱膨張性が最大の特徴です。温度変化による寸法変化が非常に小さいため、精密機器や測定機器など、寸法安定性が重要視される用途で広く使用されています。インバーは約36%のニッケルと64%の鉄から成り、線熱膨張係数は約2.0 × 10-6/℃(30℃~100℃)以下です。温度変化に強い寸法安定性を持つことから、20世紀初頭の発明以来、精密な分野で欠かせない材料となっています。(鋼の線熱膨張係数は約11.7 × 10-6/℃程度)

「インバー(Invar)」という名前は、「invariable(不変の、変わらない)」から由来しています。これは、この合金が温度変化に対して寸法がほとんど変わらないという事を表現した名前です。

 

 現在、インバーのような低熱膨張合金はJISでは直接の規格化がされていないため、ASTM規格(ASTM F1684など)やDIN規格(DIN 17745など)などの海外規格を参照したり、「FN36」や「Invar 36」という材料が使われるのが一般的です。

 

図1.インバーと他金属の線熱膨張率比較

 

 

主な用途と使用される部品

 インバーの安定した寸法特性により、次のような分野や部品に利用されています。

 

1.精密測定機器

 マイクロメーターやキャリパーゲージといった精密測定装置に使用されます。温度変化による膨張が計測精度に影響するため、インバーの低熱膨張性が非常に重要です。

 

2.時計の部品

 高精度が要求される時計のぜんまいや振り子などに使用されます。インバーの寸法安定性によって、温度変化による時間のずれが抑えられ、正確な時計の動作が可能になります。

 

3.光学機器

 望遠鏡や顕微鏡、カメラなどの光学レンズの固定枠やレンズ保持具に使われます。インバーを用いることで、温度変化による光学レンズの位置ずれが抑えられ、画質や観測精度の維持に貢献しています。

 

4.航空宇宙産業

   航空機エンジンや衛星の精密部品に使われます。インバーは温度変化が大きい宇宙空間でも寸法が安定しているため、航空宇宙産業においても非常に重要です。

 

5.液晶ディスプレイ製造

 液晶ディスプレイ製造用のフォトマスクのフレームにインバーが採用されています。フレームが温度変化で膨張すると表示精度に影響が出るため、寸法が安定したインバーが使われます。

 

 

磁性の注意点

 インバーは強磁性であり、温度変化のある環境で膨張を抑える「インバー効果」はこの磁性と関連しています。しかし、この磁性が影響する用途では注意が必要です。特に、精密機器や医療機器での使用において、インバーの磁性が問題となることがあります。

また磁性と関係していることから、高温になり磁性が減衰すると低熱膨張の性質は弱くなります。インバーでは約276℃以上で強磁性体から常磁性体になるため、通常の金属のような熱膨張の変化をするようになります。そのため、200℃以下の環境で使われることが多いです。

 

 

インバーの切削加工

 インバーの切削性には以下のようなものがあります。

・延性があり切削抵抗が大きい。

・加工硬化を起こしやすい。

・熱伝導率が低く、熱がこもりやすい。

・工具材質(超硬)との親和性が高く、溶着しやすい。

このように典型的な難削材の特徴を持っています。

一般的には熱を持たせないように低速で大きめの切込量の設定の方が良いとされています。

また切削部に熱を持たせないような工具やホルダーの選択が必要です。

 

 

インバーの関連合金

コバール

 コバール(Kovar)は、鉄、ニッケル、コバルトを主成分とし、インバーとは異なる組成ですが、同様に低熱膨張性を持ちます。コバールは特にガラスやセラミックスとの熱膨張係数と合うように設計されており、電子部品の封止材として使用されます。真空管やトランジスタ、光電子デバイスの接合部に最適で、温度による接合部のひび割れや隙間を防ぎます。

 

スーパーインバー

 スーパーインバー(Super Invar)は、インバーの改良版で、鉄、ニッケル、コバルトを含む組成です。スーパーインバーはインバーよりもさらに低い熱膨張係数(1.3 × 10-6/℃以下(30℃~100℃))を持ち、温度変化が厳しい環境でも非常に高い寸法安定性を誇ります。このため、宇宙探査機や高精度な光学系の部品、科学測定機器など、特に温度変化が厳しい場面や高精度が必要な用途に適しています。

 

 

まとめ

 インバーとその関連合金(コバール、スーパーインバーなど)は、各合金の特性に応じて精密な部品や高精度機器で重要な役割を果たしています。各合金は温度変化による寸法変化が少ないため、特に精度が求められる測定機器、航空宇宙部品、電子デバイス、光学機器などに広く採用されています。しかし、インバーは強磁性を持つため、磁性の影響を考慮しなければなりません。選択時には、温度変化、磁性の有無、低膨張性、耐熱性などの判断が求められます。

 

 

当社のインバー加工事例

スーパーインバーの電子機器部品

スーパーインバーは熱膨張率が低いため加工による変形は少ないですが、ニッケルの含有が30%を超える合金となり難削材の部類に入ります。

そのため外部環境に影響し易い屋外装置などの電子部品として使用されるケースが多いです。切削性については......

 

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インバーの切削加工部品製作も佐渡精密まで!

今回はインバーの特徴や使用されている製品について説明しました。

 

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 精密金属加工VA/VE技術ナビを運営する佐渡精密株式会社は、1970年の創業以来、切削加工を中心に、表面処理、熱処理・研削・組立などを加えた精密金属加工のプロフェッショナルとして、様々な精密金属加工を行ってきました。そのお取引先は、医療機器、半導体製造装置、航空機などの、高度な技術レベルを求められる業界のお客様が多く、皆様には大変、ご満足いただいたとの声をいただいております。

 

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