技術コラム

【図表で解説】析出硬化について

析出とは

析出(せきしゅつ)

 析出とは、一般的には固体以外の状態にある物質が固体として現れる現象の事をいい、主に溶液から溶質の物質が冷却や濃縮によって固体として現れる現象です。(例;食塩水を冷やしたり、蒸発させることにより、塩の結晶が出てくる)

 後で詳しく説明しますが、析出硬化に関係する冶金の分野では、金属の組織中に母相と異なる第2相が現れることを析出と言います。(第2相は析出相や析出物といいます)

※冶金(やきん):鉱石から金属を抽出したり、金属を加工し整形したり合金に加工する技術。

 

相(そう)

 相とは、物質の状態を指す用語です。気体は気相、液体は液相といいます。固体も固相といいますが、金属のような結晶性の物質は、固体の中でも複数の相を持っています。

 結晶性の物質の結晶粒の中は原子が規則正しく並んでいます。この並び方を結晶構造といい、温度や圧力、化学成分によって変わります。同じ物質でも結晶構造が変わると性質も変わるため、別の状態、別の相として考えます。

 例えば炭素は鉛筆の芯のような脆い状態にも、ダイヤモンドのような硬い状態にもなりますが、これは作られる時の圧力や温度の違いにより結晶構造が変わるためです。

 

図1.金属組織のイメージ

 

 つまり上述した母相とは、元々の原子の並び方(結晶構造)をしている状態の部分で、析出相や析出物は、母相と異なる原子の並び方や結合をしている部分になります。

 

 

析出硬化とは

 金属の変形は、結晶粒の中の原子が動くことから始まります。析出相が結晶粒内に微細に現れると、その場所で原子の移動が阻害されるため、変形しにくくなります。そのため金属材料全体で見ると引張強度や硬度が高くなるのです。このような強化方法を析出硬化といます。

図2.合金の析出のイメージ

 

 析出硬化を利用するためには、析出相や析出物に関係する成分を、室温付近で溶け込む限界以上に溶け込ませる必要があります。このように成分が多く溶け込んだ状態を”過飽和固溶体"といい、この時、母相はとても不安定な状態です。この状態は熱処理で作り出す事ができ、この熱処理を”固溶化熱処理”や”溶体化熱処理”と言います。この過飽和固溶体の材料に対して適切な熱処理を行うと、母相と析出相に分かれ安定な状態になります。この時の熱処理の方法で析出相の現れ方が変わり、強度や硬さも変わります。

 

図3.析出する過程のイメージ

 

 

析出硬化できる合金

 析出硬化はアルミ二ウム合金ステンレス鋼で多く利用されています。

 

アルミニウム合金

 アルミニウム合金では2000番台、6000番台、7000番台が析出硬化で強化できる合金です。T4やT6といった質別記号が付与されており、自然時効硬化されたもの、人工時効硬化処理されたものと説明されています。これは室温付近での時間経過や、低温焼き鈍しで機械的性質が変化する現象(この場合は、主に引張強度のような強度の強化)の事をいいますが、合金内にアルミと銅、マグネシウムなどの化合物が析出することによるものなので、析出硬化と同義として捉えられます。

 2000番台、7000番台のアルミニウム合金はアルミと銅の化合物を析出させるため、銅を比較的多く含有していますが、これが原因で腐食しやすいので注意が必要です。

 

 

ステンレス鋼

 JIS規格のステンレス鋼では、SUS630やSUS631など、600番台が析出硬化処理を行える材質です。

 

 SUS630の成分は銅とニオブが多く含有していることが特徴的です。ニオブは耐食性や高温強度を向上させるために添加されており、析出硬化に寄与する成分は銅になります。

 SUS630の場合、固溶化熱処理後はマルテンサイト組織となり、この時点でも強度のある金属です。これに析出硬化処理を施すことで、組織内に銅リッチな相が微細に析出し、引張強度や硬度がより高い金属になります。SUS630の析出硬化処理の記号はH900、H1025、H1075、H1125の4種類があり、数字が小さくなるほど高強度な金属になります。

 

図4.SUS630の処理の模式図

 

 

 SUS631の場合は、クロムとニッケルがSUS630に比べ多く含有されており、固溶化熱処理後は300番台のステンレスと同じくオーステナイトの金属組織となります。この段階では強度は低く、延性があるので成形しやすく、薄板や線材等、多様な形状で素材が提供されています。

 この素材を熱処理などでマルテンサイト化した後、析出硬化処理を行い強化するので、SUS630と比較して処理が1工程(段階)多くなります。SUS631には析出硬化に寄与する成分としてアルミニウムが含有されており、析出硬化処理を行うとニッケルとアルミニウムの化合物が析出し、それによって強度が高くなります。

 

図5.SUS631の処理の模式図

 

 そのほかの析出硬化ができる合金としては、析出硬化型ステンレスから派生したマルエージング鋼や、β型チタン合金、コバルト合金、ニッケル合金などの一部があります。

 

 

 精密金属加工VA/VE技術ナビを運営する佐渡精密株式会社では、切削加工だけではなく、析出硬化処理などの熱処理も含めた一貫加工も承っております。

お困りの加工部品がございましたら、是非一度お問い合わせください。

 

 

まとめ

・析出硬化とは、添加された成分が金属組織内で微細に析出し、原子の動きが阻害されることによって金属の強度が高くなる現象です。

・析出硬化は、アルミニウム合金やステンレス鋼などの金属で多く利用されています。

 

 

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